カルシウムと記憶の関係が解明

北海道大学の研究グループが、
脳の神経細胞内でのカルシウム増加と
記憶形成の関係のメカニズムを
分子レベルで解明したとのこと。

カルシウムと記憶形成の関係

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北海道大学大学院医学研究科の神谷温之(はるゆき)教授[6]の研究グループが、脳の海馬の神経細胞内での、カルシウム増加と記憶形成のメカニズムを、分子レベルで解明したと発表したとのこと。

(論文は2008年8月に「米国科学アカデミー紀要」(電子版)[4][5]に掲載。)

この研究では、海馬(記憶を司る脳の部位)の1/3を占める「CA3野」と呼ばれる部位における、今まで判明していなかった記憶形成のメカニズムを、マウスによる実験で解明したとのことです。

それによると、脳が強い刺激を受けた場合に、「CA3野」では海馬の他の部分と異なり、受容体(情報を受ける側)ではなく情報を伝える(送る)側のグルタミン酸を増加し、「記憶」が形成されます。

そして、「CA3野」でのグルタミン酸の増加は、カルシウムが増加することで引き起こされているとのこと。

さらに、脳が受けた強い刺激で、カルシウムがシナプス(神経細胞のつなぎ目)に少量供給された後、「2型リアノジン受容体」(海馬ではCA3野にのみ存在)が細胞内で、カルシウムイオンの放出を促進していることが解明されたそうです。

ちなみに「2型リアノジン受容体」は心臓の筋肉にも存在し、心筋を収縮させることにも関わっているとのことです[3]。


(参考)
・[1]北海道新聞2008年8月5日朝刊2面
・[2](8/12)脳の記憶、カルシウムで強まる 北大・東大、関連たんぱく質発見(NIKKEI NET いきいき健康)
 http://health.nikkei.co.jp/news/biyou/index.cfm?i=2008081109083j9
・[3]北大:海馬の神経細胞、カフェインで増強 研究チーム発表 - 毎日jp(毎日新聞)
 http://mainichi.jp/select/science/news/20080805k0000e040035000c.html
・[4]Proceedings of the National Academy of Sciences(「米国科学アカデミー紀要」電子版)
 http://www.pnas.org/
・[5]Use-dependent amplification of presynaptic Ca 2+ signaling by axonal ryanodine receptors at the hippocampal mossy fiber synapse ― PNAS(※論文の要約)
 http://www.pnas.org/content/105/33/11998.abstract?sid=5dc03ae2-dae9-4af2-8e53-4ec0f7d8142a
・[6]神経生物学分野 神谷温之研究室
 http://www.med.hokudai.ac.jp/~anat-1w/menu.html
・受容体 - Wikipedia
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8F%97%E5%AE%B9%E4%BD%93
・海馬 (脳) - Wikipedia
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%B7%E9%A6%AC_(%E8%84%B3)


従来の記憶形成のメカニズム

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今までに判明していた記憶形成のメカニズムでは、脳が強い刺激を受けたとき、大脳下部の「海馬」と呼ばれる部位の中で、グルタミン酸を受ける受容体(たんぱく質の一つ)が増加して神経間の情報伝達量が増えることで、「記憶」が形成される、とされているのことです。

(※脳細胞間の情報伝達は、「シナプス」(神経細胞間の継ぎ目)でグルタミン酸の受け渡しが行われることでなされる。)

しかし一方、海馬の約1/3を占める部位「CA3野」では、グルタミン酸の受容体を増加させる物質が存在しないにも関わらず、記憶機能があることから、この「CA3野」では海馬の他の部位とは別のメカニズムが作用している、と考えられてきたそうです。

北大の神谷教授の研究グループが2008年8月に発表した研究成果では、「CA3野」に働く、記憶形成における別のメカニズムが述べられています。


(参考)
・北海道新聞2008年8月5日朝刊2面
・海馬 (脳) - Wikipedia
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B5%B7%E9%A6%AC_(%E8%84%B3)


記憶とカフェインの関係

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経験的に、お茶やコーヒーといった、カフェインを含む飲み物を勉強のときに飲むと、記憶力がアップする、ということが言われています。

神谷教授が行った研究では、脳の海馬「CA3野」の「2型リアノジン受容体」にカフェインを与えることにより、細胞内のカルシウム濃度が高まって、情報伝達の増幅効果が高まることも確認されたとのことです。

(※しかし神谷教授によると、実験で使用したカフェインは高濃度であり、コーヒーを飲む程度では記憶の変化は起こらないとのこと[2]。)

ただし、カフェインは「2型リアノジン受容体」とは別の受容体も刺激して、興奮作用も引き起こしてしまうとのことです。

この研究結果から、2型リアノジン受容体だけを刺激する物質が発見されれば、記憶力を上げる新薬や、痴呆症の薬などを開発できる可能性があると考えられています。


(参考)
・[1]北海道新聞2008年8月5日朝刊2面
・[2]北大:海馬の神経細胞、カフェインで増強 研究チーム発表 - 毎日jp(毎日新聞)
 http://mainichi.jp/select/science/news/20080805k0000e040035000c.html


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